糸の色合わせは「感覚の訓練」
フォト刺繍において、糸の色合わせは私にとって最も難しい作業の一つです。刺繍ソフトが自動で色を割り当ててくれる機能もありますが、それだけでは「刺繍としての美しさ」や「糸ならではの表情」を引き出すことはできません。
そこで私は、元の画像、刺繍データに変換された画像、実際の刺繍糸を何度も見比べながら、最適な色を探していきます。単純に「肌色だからこの糸」と決めるのではなく、同系統の糸の明るさや色合いを一括で比較し、違和感のない組み合わせを目指します。
とくに人物の肌のような繊細な部分では、ほんのわずかな色差や明度の違いが印象を大きく変えてしまいます。極端な色の切り替わりが起こらないよう、すべての色が自然につながっていくように調整します。
経験が、色を見る目を育てる
どれだけ慎重に色を選んでも、実際に刺繍してみないと本当にイメージ通りになっているかは分かりません。特にフォト刺繍の場合は、光と糸の相互作用で見え方が大きく変わります。
だからこそ、できるだけ多くの種類のフォト刺繍を作成し、さまざまな糸の組み合わせを経験することが大切だと私は思っています。経験が積み重なるほど、色に対する感覚は鋭くなり、「この色ならこう見える」という直感も働くようになります。
また、糸選びに使う「糸リスト」も私にとって重要な道具です。新しい色番が出たらすぐに反映したり、自分の作品に合わない糸は外すなど、常にアップデートを心がけています。
最後にもうひとつ。私は普段から、身の回りの光景と刺繍糸をリンクさせる意識を持っています。たとえば、夕焼けの空を見たときに「この色はあの糸だ」と瞬時に変換するような感覚です。これは訓練というより、フォト刺繍を長く続けていると自然と身についていく感覚かもしれません。