フォト刺繍は、データを作ってからが本番です

DG16に読み込ませた石清水八幡宮の写真。フォト刺繍データ編集時の元画像として使用。

フォト刺繍は、データを作ってからが面白い

フォト刺繍というと、写真を刺繍データに変換する技術だと思われることがあります。しかし、私が考えるフォト刺繍は、そこからが本番です。

DG16で表示した石清水八幡宮のフォト刺繍データ編集前画面。
石清水八幡宮の写真から生成したフォト刺繍データ。編集前のステッチ構成を示しています。
DG16で表示した石清水八幡宮のフォト刺繍データ編集後画面。
石清水八幡宮のフォト刺繍データを編集した後の画面。ステッチと糸色を調整した状態です。

フォト刺繍というと、写真を刺繍データに変換する技術だと思われることがあります。

もちろん、それは間違いではありません。

写真を読み込んで、刺繍データを作る。
現在の刺繍ソフトを使えば、そこまでは比較的簡単にできます。

しかし、私が考えるフォト刺繍は、そこからが本番です。

今回の画像は、フォト刺繍データを編集している途中のスクリーンショットです。

1枚目は、編集前。
2枚目は、編集後。

同じ写真をもとにしたデータですが、ステッチの残し方、色の見せ方、全体の印象は大きく変わっていきます。

フォト刺繍は、ただ写真を刺繍に変換するだけではありません。

どのステッチを残すのか。
どのステッチを消すのか。
どの色を強く見せるのか。
どの糸を使うのか。
どこを細かく見せ、どこをあえて省略するのか。

そうした判断を積み重ねることで、ようやく刺繍作品としての表情が出てきます。

目次

自動で作ったデータは、まだ素材にすぎない

フォト刺繍のデータを作ること自体は、昔に比べるとずいぶん簡単になりました。

ソフトの機能も良くなっています。
写真から刺繍データを作ることもできます。
初めての方でも、ある程度の形にはなります。

ただし、それで完成かというと、私はそうは思っていません。

自動で作られたデータは、あくまで素材です。

そこから、どう見せるか。
どこを整理するか。
どこに光を感じさせるか。
どの糸で刺繍した時に、作品として成立するのか。

そこを考えるところに、フォト刺繍の表現があります。

モニター上ではきれいに見えても、実際に刺繍すると重くなることがあります。
写真では自然に見えても、糸に置き換えると濁って見えることがあります。
細かく作ったつもりでも、刺繍になると印象が弱くなることもあります。

だから、編集が必要になります。

この編集作業によって、フォト刺繍は単なる写真の再現ではなく、繊細で、なおかつインパクトのある刺繍作品になっていきます。

難しいというより、知られていない技術

では、この編集作業はとても難しいのか。

私は、必ずしもそうは思っていません。

ただ、一般的な刺繍データ作成の中では、少しマイナーな技術かもしれません。

通常の刺繍データ作成では、ロゴ、文字、ワッペン、マークなど、目的がはっきりしているものを作ることが多いです。

どこを縫うか。
何色で縫うか。
どの順番で縫うか。

比較的、答えを決めやすい世界です。

一方で、フォト刺繍には明確な正解がありません。

写真に近ければ良い、というものでもありません。
色数が多ければ良い、というものでもありません。
ステッチ数が多ければ良い、というものでもありません。

むしろ、どこを削るか。
どこを残すか。
どの色に作品全体を支配させるか。
どの部分に見る人の目を止めるか。

そういう判断が必要になります。

ここが、フォト刺繍の面白いところです。

フォト刺繍は初心者向けなのか

フォト刺繍は、初心者向けの機能のように見られることがあります。

写真を入れれば刺繍になる。
だから簡単そうに見える。

たしかに、始める入口としては分かりやすいと思います。

でも、フォト刺繍を本当に作品として成立させようとすると、話は変わります。

初心者でも始められる。
しかし、プロでも作れないフォト刺繍がある。

私は、ここを知ってもらいたいと思っています。

刺繍のプロであっても、文字やロゴやマークのデータ作成に慣れている方であっても、フォト刺繍では別の感覚が必要になります。

写真の色をそのまま糸に置き換えても、同じようには見えません。

糸には光沢があります。
ステッチには方向があります。
密度によって色の強さが変わります。
隣り合う色によって、見え方も変わります。

さらに、見る距離によっても印象が変わります。

近くで見ると糸の集合です。
少し離れると写真のように見えます。
さらに見方が変わると、光や空気感のようなものが立ち上がってきます。

この見え方を想像しながらデータを編集する。

ここに、フォト刺繍の難しさと面白さがあります。

プロでも作れない理由

では、なぜプロでも作れないフォト刺繍があるのか。

それは、フォト刺繍が単なる刺繍データ作成ではなく、見え方を設計する作業だからです。

きれいなデータを作るだけでは足りません。
正確に変換するだけでも足りません。
写真に似せるだけでも、まだ足りません。

糸でどう見えるか。
刺繍した時にどう沈むか。
どの色が前に出るか。
どの色が作品全体を壊すか。
どの部分をあえて捨てるか。

こうした判断が必要になります。

特にフォト刺繍では、すべてを細かく表現しようとすると、かえって作品が弱くなることがあります。

残すことより、削ることの方が大事な場面もあります。

この判断は、ソフトが自動でしてくれるものではありません。
作る人が考えるしかありません。

だから、フォト刺繍は面白いのです。

フォト刺繍で独自の表現にたどり着くには

私はこれまで、フォト刺繍の技術について、いろいろな方と直接交流してきました。

講習でお話しした方もいます。
実際に作品を見せてもらった方もいます。
技術的な相談を受けた方もいます。

その中で感じるのは、フォト刺繍は、作り方を覚えれば終わりという技術ではないということです。

写真を刺繍データにすることはできます。
糸色を選ぶこともできます。
ステッチを編集することもできます。

しかし、そこからさらに一歩進んで、
自分の見え方を持ち、
自分の判断で糸を選び、
自分の表現としてフォト刺繍を成立させる。

ここには、やはり時間がかかります。

私自身も、何度も失敗しながら、少しずつ今の表現にたどり着いてきました。

これまで交流してきた中で、すでに独自の世界を築いておられると感じる方もいます。
正確に言えば、1人と1社です。

それぞれが、私とは違う方向でフォト刺繍の可能性を広げておられます。

これは、とても嬉しいことです。

フォト刺繍は、私と同じものを作るための技術ではありません。

自分の見え方を持つこと。
自分の判断で糸を選ぶこと。
自分の表現として刺繍を作ること。

そこまで行って、初めて本当の意味で面白くなるのだと思います。

刺繍は、どこまで行っても奥が深い

フォト刺繍に限らず、刺繍は本当に奥が深い世界です。

仕事として刺繍をしている方。
作品として刺繍を作っている方。
長年、刺繍機に向き合っている方。

どれだけ経験を積んでも、多くの方が同じことを言われます。

刺繍は奥が深い

私もそう思います。

糸、針、生地、密度、下糸、押さえ、スピード、データ、機械の状態。

条件が少し変わるだけで、仕上がりは変わります。

しかも、正解は一つではありません。

だから難しい。
でも、だから面白い。

答えのない世界を、一緒にのぞいてみませんか

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機械の使い方だけではなく、
刺繍データの考え方、
現場で必要になる判断、
そしてフォト刺繍のような表現の世界まで、
少しずつ共有していきたいと考えています。

刺繍機を持っている。
刺繍ソフトを使える。

それだけで終わるのは、少しもったいないと思います。

その先に、もっと深い世界があります。

写真を糸にする。
光を糸で表現する。
ステッチと糸色で、見る人の印象を変える。

そんな答えのない刺繍の世界を、一緒にのぞいてみませんか。

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もうすぐ開校します。

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