
私のフォト刺繍
フォト刺繍とは、写真をモチーフに糸で描く刺繍表現のひとつです。私は写真を刺繍データに変換し、工業用のタジマ刺繍機で作品を制作しています。特に風景に映る光を糸で表現することをテーマにしており、写真でも絵画でもない、糸が生む独自の光と質感を追求しています。フォト刺繍にはさまざまな手法がありますが、私の作品では「光を糸で表現する」ことを中心に据えています。
創作のはじまり
私が若い頃、刺繍で写実的な表現を行うことは非常に難しいとされていました。しかし近年、画像を刺繍データへ変換できるテクノロジーの進歩により、表現の幅が大きく広がりました。
私はタジマ刺繍機の西日本総代理店である株式会社精研の代表として、長年にわたり産業用刺繍機の販売に携わってきました。その立場から当初はフォト刺繍を「産業用途には向かない」と考え、2012年頃まではお客様のご相談にも「ビジネスとしては難しい」と答えていました。
しかし業界はすでに大型機による大量生産から、小型機による多品種少量生産へと移り変わりつつありました。このままでは小型機が売れなくなる
という危機感から、私は自らフォト刺繍に取り組み始めました。
試行錯誤と発見
制作を始めた当初は思うような結果が出せず、失敗の連続でした。それでも既存の刺繍技術を活かしながら自分なりの方法を模索し、試行錯誤を重ねました。取り組みは当初、刺繍機販売の実験的延長線上にありましたが、成果の有無に関わらず自社サイトやブログで発信し続けました。
その積み重ねが徐々に形となり、技術的課題を克服。フォト刺繍が注目を集め始め、私はそれを「仕事」ではなく表現として楽しむようになっていきました。
フォト刺繍クリエーターとして
2018年にフォト刺繍クリエーターとして活動を本格化。2019年には代表作「背割堤の桜」を制作し、京都・さくらであい館での展示をきっかけに活動の幅が広がりました。その後も個展や書籍掲載、国内外の展覧会への出品を続け、2024年にはニューヨークのCUNYギャラリーでも作品を展示しました。
現在は、ステッチ編集の精度をさらに高めながら、制作テーマである「光を糸で表現する」という命題を掘り下げ、フォト刺繍の新たな可能性を探求しています。
フォト刺繍は、私にとって単なる再現技術ではなく、光と糸を通して世界を感じ取るための表現手段です。
