金閣寺

フォト刺繍アート作品「金閣寺」Dai Higuchi 作(2021年)

金閣寺(金銀糸フォト刺繍)

サイズ:横715mm × 縦395mm
使用色数:63色
ステッチ数:1,153,291針

作品について

この作品は、ある特別な依頼から生まれました。
「金閣寺を金銀糸で表現してほしい」――その言葉を聞いた瞬間、私は正直「無理かもしれない」と思いました。

私のフォト刺繍では、微妙な色差のある刺繍糸を組み合わせてグラデーションを表現しています。しかし金銀糸には、そうしたバリエーションが存在せず、背景のレーヨン糸と建物の金銀糸とを完全に分けて刺繍データを作成する必要がありました。

表現への挑戦

画像編集では、金銀糸部分と木造の茶色部分を切り分けるところから始めました。特に力を入れたのは金閣寺舎利殿1階部分の仏像のシルエットです。写真では暗く潰れて見えませんが、明るく補正することで浮かび上がり、それをステッチデータとして再現しました。

この処理により元画像の色からはずれてしまい、ソフトが誤った糸色を選ぶ可能性があるため、自分の目で確認して糸を選びました。この工程で「フリーフォト刺繍」という新しい着想を得ました。(この技法についてはまた別の機会にご紹介します)

金銀糸でのグラデーション表現

金銀糸は色数が限られているため、通常のような滑らかなグラデーションは使えません。そこで糸の「反射の違い」を使って明暗を表現しました。光の角度や素材の艶感を頼りに構成した、直感と経験に基づく刺繍です。

結果と意義

この作品は2020年に完成しました。当時の自分としては精一杯の完成度でしたが、その後、フリーフォト刺繍のアイデアを取り入れることで、さらに繊細な表現が可能になりました。 (その当時の詳細記事はこちら

こうして完成したこの作品は、金銀糸によるグラデーションで表現された、世界でも例を見ない金閣寺のフォト刺繍となりました。私にとっても、最も想像力と技術の限界に挑んだ作品のひとつです。

制作当初は、「金閣寺を金銀糸で刺繍する」という依頼に戸惑いながらも、試行錯誤を重ねて一つひとつ課題を乗り越えてきました。色ではなく反射で描くというアプローチ、光と影の再構成、そして仏像のシルエットへの挑戦。どれもが、従来の技法では辿りつけなかった視点と感覚を与えてくれました。

振り返れば、この作品は私にとって技術的な限界を広げてくれただけでなく、新しい表現方法――つまりフリーフォト刺繍という発想へとつながる、転機となった一作でした。今後も、この作品で得た気づきを糧に、より自由で深い刺繍表現に挑み続けていきたいと考えています。